メキシコ×ジビエ!鹿肉の「メキ“シカ”ン」タコス
メキシコのタコス
「マリファナ吸うか?」と、空港の自動扉をくぐって外に出るなり僕らに勧めてから、耳にでっかいピアスのあいた彼は、その場で堂々とそれを吸い出した。僕とアキラ君は「メキシコ、やばいな」と目で確認しあい、出来るだけ早くその場を離れた。今から5年前、バックパック旅行をしていた僕と、旅の相棒アキラ君が、初めてメキシコを訪れた時の第一印象だ。時刻は夜の12時を回っていて、宿のあてはなかった。入国手続きの順番待ち中に知り合った「彼」の一服を遠巻きに眺めつつ、「この国、怖いかもしれない」と不安になったのをよく覚えている。中南米の麻薬カルテル映画のイメージが、暗い空港のロータリーをぐるぐる渦巻いた。
とりあえずタクシーを止めて「腹が減ったのだが、金がない。安く食べられる店はないか」と尋ねると、運転手はカンクンのダウンタウンへと向かった。寝静まった住宅街の中の一角、ささやかに飲食店が並ぶ通りがあって、薄汚れた壁、スプレーの落書き、極彩色のネオンサインが怪しい異国感を演出している。通りの端っこには小さく開けた空き地があって、そこに一軒佇むタコス屋台の前で僕らは車を降りた。真夜中なのに、屋台には白色の明かりが煌々と灯り、真夜中なのに、家族連れ風のお客がそれなりにいて、真夜中なのに、まあまあ和気藹々としている。「この国、怖くないかもしれない」と思った。
僕らはスペイン語のメニューが全くわからないので、他のお客が食べているものを指差して注文した。店主は小さなトルティーヤを熱い鉄板にのせ、その間にサイコロ状にカットされた肉をジュージュー焼いた。どうやら「ポヨ」の肉らしいが、ポヨの肉とは一体なんの肉なのだろう(後で鶏肉のことだと知る)。焼いた肉をトルティーヤに乗せて、手渡されたので、そこへ、屋台にずらっと並んだ色とりどりのサルサから好きなものを選んでのせる。どれも味の見当がつかないが、適当にチョイス。最後にライムを絞って、がぶっと食らいついた。
と、前置きが長くなってしまったが、この時の美味さ、衝撃、感動は忘れることができないものだったのだ。この時の美味さ、衝撃、感動について、アキラ君とその後何度語り合ったか分からない。要するに「メキシコで食ったタコスが美味かった」というだけの話なのだが、これを誰かに伝えずにはいられない!という話になり、2人で再現を試みたというのが今回である。僕がハンター修行を始めたということで、使うのは鹿肉。メキシコのフレーバーに、ジビエのエッセンスを加えた「メキ“シカ”ンタコス」は、我ながら「こんな美味いものが世に認知されていないなんて信じられない」ほどの傑作。再現レシピをご紹介しよう。
レシピ(4個分)
トルティーヤ
- マサ(とうもろこし粉) / 80g →Amazonなどで買えます。
- サラダ油 / 小さじ2.5
- 塩 / 小さじ0.5
- 水 / 100ml
タコスミート
- 鹿肉(固めの部位がおすすめ) / 160g →他の肉で代用するなら味の濃い牛肉がおすすめ。
- クレイジーソルト / 適量
サルサ緑
- シシトウ / 4本 →本場レシピのハラペーニョは手に入りにくいので、マイルドに代用。
- アボカド / 半個
- 粉チーズ / お好みで適量
サルサ赤
- プチトマト / 5個 →トマトよりも甘さと酸味のバランスが良く、細かく切っても崩れにくい。
- ニンニク / 半片
サルサ白
- 玉ねぎ / 半個
- パクチー / 1本
仕上げ調味料
- ライム / 半個
- タバスコ(緑) / お好みで適量 →「赤」ではなく「緑」!これ重要。
下準備
トルティーヤ
- すべての材料をボウルに入れ、十分にこねる。
- 30分ほど置き、耳たぶくらいの固さになったら4等分する。
- 5mmほどの薄さで円形にのばす。
タコスミート
- 鹿肉を1cm角ほどの大きさに切る。
- クレイジーソルトを振り、揉み込んでからしばらく置く。
サルサ緑
- シシトウのヘタをとり、薄く切る。
- アボカドは皮を剥き、ペースト状になるまですりつぶし、お好みの量の粉チーズを加えて混ぜる。
サルサ赤
- プチトマトのヘタをとり、12等分に切る。
- ニンニクをすりおろし、プチトマトと和える。
サルサ白
- 玉ねぎは粗めのみじん切りにし、やや辛味が残る程度になるまで、水にさらす。
- パクチーは茎ごと細かいみじん切りにし、玉ねぎと和える。
食べ方
- ホットプレートを200度に温める。プレートの半分に多めの油をひき、鹿肉をこんがりするまで炒める。
- ホットプレートの残り半分でトルティーヤを焼く。この時、油はひかない。両面に少し焦げ目がつくまで焼く。
- トルティーヤにタコスミートとお好きなサルサを盛り付け、ライムを絞ってタバスコ(緑)を振りかけて、完成。
冒険の味、ハラペーニョ
本当は、ハラペーニョを加えたいところ。独特の辛味とライムとの相性が抜群に良く、メキシコ料理の重要なアクセントになっている。しかし、残念ながら日本ではスーパーなどで入手しにくいので、シシトウや甘唐辛子などを使い、タバスコの緑をかけることで代用としている。これはこれで十分美味いのだが、やはり味のパンチという意味では本物のハラペーニョに代わることはできない。
初めてメキシコでタコスを食べた夜は、辛いと知らずにハラペーニョを入れすぎた。家族で屋台に来ていた現地のおばちゃんが「辛いよ」と忠告してくれていたような気がするが、それをよく聞かずに頬張り、あまりの辛さに悶絶した。おばちゃんとその家族は僕を見て大笑いし、僕は涙目で「この国、怖くねえわ」と安堵した。