マムシを捕まえてマムシ酒を作ってみた
ある日、罠の見回りで山に入ると、マムシがいた。
天川村に移住してから、地元の人が毒ヘビを「ハビ」と呼んでいるのを聞いていたので、僕は最初「これがハブか〜」と思った。でも、後から知ったが、ハブというのは沖縄や奄美にしかいない。「ハビ」というのは毒ヘビを指す方言のようだ。関西方面の方言らしい。で、僕が見つけたのはマムシだ。
恐る恐る木の枝で突っついてみても、マムシは動じない。眠いのかもしれない。
罠には獣がかかっていないし、収穫なしで帰るのも癪だったので、マムシを捕まえて帰った。手でつかむのは流石に危ないと思ったので、火バサミでつかんで、フタの閉まるプラスチックのケースに入れた。家に帰ってネットで「マムシ酒 作り方」を検索。
マムシ酒は滋養強壮に効果を発揮し、また塗り薬にもなるらしい。年単位で漬け込む代物なので、作るなら早い方が良い。こういう、完成に時間の経過を必要とするものを仕込むのは、楽しい。いったい何に先行投資しているかは分からないが、何かに先行投資しているような気になる。
さて、まずはプラスチックケースにドリルで穴を開けた。マムシが呼吸するための穴だ。それから水を、マムシの身体が半分くらい浸かるまで入れる。これで3ヶ月置く。こうすることでマムシが食べた物が全て排泄され、クリーンになる。この過程を飛ばしてすぐにマムシ酒を漬けると、臭いらしい。
最初は毎日水換えをする。注意しながらケースを少し開けて、水を入れ換える。若干、茶色く濁っている。それでも数日経つと水は濁らなくなり、水換えの頻度も少なくなっていった。
2ヶ月目くらいで脱皮をしたが、ケースを開けて皮を取り出すときに噛まれるのが嫌なので、皮はそのまま放っておいた。
3ヶ月が経過。水と空気だけで3ヶ月も生きているマムシの生命力はすごい。若干の愛着も湧いてきており、酒に漬けるのが若干はばかられたが、やることにした。
ケースから瓶へと移し替える際に脱走されては大変なので、全てを大きなポリ袋の中で行う。ヘビは体温で獲物を察知するらしいが、僕の体温に反応しているのか、火ばさみを持つ手の方へとグイグイくる。噛まれたら嫌なのでポリ袋をねじってシャットアウトする。しばらくしたら無事に瓶の中に入った。
瓶に入ればもう安心なので、自宅に持ち帰る。瓶の上に網を乗せて、そこから40度のウォッカを注ぎ込んだ。ウォッカの水位がマムシを越えると、マムシは少し暴れた。40度のアルコールは流石に別だが、適度なアルコールだったら、マムシにも酔っ払うという感覚はあるのだろうか。
しばらくは口をかすかに動かすのみだったが、10分くらい経ったときに再び動き出し、瓶の中を上へ行ったり下へ行ったりした。そして最後に口から気泡を吐き出すと、動かなくなった。黄色かった眼の色は次第に茶色くなり、1時間もすると真っ白になった。
これがマムシ酒として完成するまでは3〜5年がかかるようだ。中華料理屋に置いてあるような、ヘビの浸かった茶色い酒になる。流石に味は期待していないけれど、自分で捕まえたマムシで作ったマムシ酒に「徹夜しても平気」とか「飲んだら風邪が治る」くらいの効能があったら嬉しい。
さて、ここまでやっておいて今更なのだが、毒は大丈夫なのだろうか?と、調べたところによると「アルコールによって大丈夫になる」そうだ。大丈夫らしい。