フクロナガサ、槍、ダガー。狩猟の刃物と銃刀法について

狩猟をやっていると、刃物が要る。それも、一般生活ではあまり登場しないような特殊な刃物であることが多い。しかし、日本の法律のもと、それらの取り扱いには十分注意する必要がある。悪意なく「3年以下の懲役または30万円以下の罰金(銃刀法・第13条の4)」なんかに処せられるのは嫌である。留意すべきポイントを整理した。

 

刃物の分類と法律

注意すべき法律は銃刀法と軽犯罪法の2つ。刃物は3つのカテゴリーに分けることができる。

分類 銃刀法 軽犯罪法
①刀剣類 刃渡り15cm以上

・刀
・槍
・なぎなた

刃渡り5.5cm以上

・剣
・あいくち
・飛出しナイフ

許可なく所持禁止
(家での保管もダメ)
正当な理由なく
携帯禁止
②銃刀法22条に
抵触する刃物
刃渡り6cmをこえる刃物

ただし、
・はさみ
・折りたたみ式ナイフ
・くだものナイフ(刃先が丸い)
 →8cmまでOK
・切出し
 →7cmまでOK

正当な理由なく
携帯禁止
③その他 上記以外のもの 規制なし

 

刀剣類とは

まず「①刀剣類」というのは、極めて殺傷能力の高い、いわゆる武器にあたるようなものだ。「許可なく所持禁止」とあるが、「許可」は美術品としての日本刀などが対象となっている。実用上、これら刀剣類を所持することは不可能と考えて良い。ただし、後述するように、狩猟に用いる道具が「刀」「やり」「剣」のいずれかに該当する可能性はある。ここはキチンと整理したい。

「正当な理由」とは

カテゴリー②の刃物については、「正当な理由」があれば持ち運んで使用することができる。では「正当な理由」とは何だろうか?例えば以下のような場合だ。

・ナイフを購入し、持ち帰る
・メンテナンスのため、専門店へ持っていく
・狩猟、キャンプなどで使用するため持ち運ぶ
・料理人が仕事のため店に包丁を持っていく

要するに「用もなく」ということでなければOKだ。ちなみに、「護身用」はアウト。たとえ緊急時の備えとしてであっても、他者を傷つけることを前提とした刃物の所持を日本の法律は「正当な理由」と認めていない。

また、ナイフを車のダッシュボードに収納したまま出かけることも「携帯」に該当するので、使用の目的が済んだ後は、そのまま車内に置きっぱなしにせず、自宅に保管しなくてはならない。注意が必要だ。

「はさみ」の所持で逮捕?

こんなニュースがある。2017年のことだ。

神戸市内の路上で、乗用車内に「はさみ」を持っていたとして、銃刀法違反の疑いで現行犯逮捕された男性会社員が、その後「誤認逮捕」として、釈放されていたことがわかった。報道によると、兵庫県警は謝罪したという。

銃刀法は、刃渡り(刃体の長さ)が「6センチ」を超える「刃物」の携帯を禁じている。一方で、「はさみ」の場合、刃渡り「8センチ」以下まで携帯できることになっている。報道によると、この車内からみつかった「はさみ」は、刃渡り「7.5センチ」だった。

この男性は幸い逮捕されずに済んだ、というか、そもそも違反に該当していなかったわけだが、「8cmを超えていないから大丈夫」という認識は無かったのではないだろうか。おそらく、一般的にそこまで気にかけている人は少ないはずだ。「あと5mm」のギリギリで逮捕されかけた事例が現実にあるということはよく覚えておきたい。

6cm以下でも、軽犯罪法でアウト

ここまで銃刀法による規制について述べてきたが、「じゃあ、刃渡り6cmを超えないナイフであれば、ファッション感覚で持ち歩いても大丈夫なのか」というと、そうではない。

軽犯罪法第1条2号では、「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者は、拘留又は科料に処する」とされている。これは、どんな小さな刃物であっても適用される。

要するに、「用もないのに危険なものを持つな」というのが原則だ。

剣ナタは、「刀」に該当?

さて、ここからは狩猟に用いる刃物について。まずは剣ナタ。獲物にトドメを刺したり、ヤブ歩きでの枝払いに使ったり、対クマの護身用などに用いられる。結論から言うと、「剣ナタは刀ではない。」

マタギ世界の伝統的な道具として名高い「フクロナガサ」

たとえばこのフクロナガサ、刃渡りは余裕で15cmを越える。「刀」と明らかに違うフォルムではあるが、それと同等くらいに危ない道具であるように思われる。これは大丈夫なのだろうか?

そもそも、刀とは何か。銃刀法における「刀」は次のように定義される。

通常つばのある、つかにつけて用いる片刃(その先端が諸刃となっているものを含む。)のもの

実に、微妙というか、曖昧な定義である。これでは判然としないので、警察に電話をかけて問い合わせてみたところ、以下のような回答を得た。

・フクロナガサ含め、普通に市場に出回っている商品は全て銃刀法に適合していると考えてよい。

・「刀」の特徴として、刃が曲線状になっており、一刀両断的に斬ることに特化した形状であることが挙げられる。

・厳密な定義は示されておらず、個別の刃物の合法性に関してはケースバイケースの微妙な判断となる。

ともかく、市販品であれば問題ないそうだ。ただ、鋼材からナイフを自作する場合なんかには、現物を持って警察の確認を受けた方が安心かもしれない。

フクロナガサは、「槍」に該当?

引き続き、フクロナガサ。この刃物の最大の特徴は、刃体から一続きに同じ鋼で作られた持ち手の部分が中空になっていることだ。ここへ棒を差し込むことで、槍として使用できる。

コールドスチール社の「ブッシュマン」も同様の造り。僕はこれを使っている。

罠にかかったイノシシなど、危険な獣を相手に止めさし(トドメをさすこと)を行う際には、こうした道具を槍として用いる必要がある。手に持ったナイフで止めさしを行うのは、あまりに近距離で危険である。

これらの刃物について、そのままであれば問題なく合法であるが、棒を取り付けて槍状にした場合の取り扱いはどうなるのだろうか。警察に問い合わせてみた。

・棒を取り付けたフクロナガサは、銃刀法の「槍」に該当しない。これは実際に問い合わせが多いポイントで、はっきりと「該当しない」見解が示されている。

・刃の幅が広いことがポイント。「槍」は、もっと細い形状の刃を備えた、突き刺し性能の高い道具をさす。

・しかしながら、「刃の幅が◯cm以下ならOK」といった基準があるわけではないので、どんな刃物でも棒に取り付けて良いというわけではない。

フクロナガサ、あるいは同様の刃物を槍として使用するのは問題ないようだ。ただ、棒を取り付けた槍の形状のままで持ち運ぶのは避けた方が良いかもしれない。止めさしの現場で棒を装着し、その場限りで「槍」として使えば済む話なので、それ以外の場面で不必要に道具の危険性を高めることは避けるべきだ。

「剣」とは? ダガー規制に注意

最後に「剣」だ。剣とは、

つかにつけて用いる、鎬(しのぎ)を中央に左右均整のとれた諸刃のもの

「しのぎ」とは、刃の側面の小高くなっている部分のこと。「しのぎを削る戦い」というのは、この部分がぶつかり合って削れるほどに激しい刀での戦闘、という意味だ。いわゆる「ダガーナイフ」と呼ばれる、刃が両側についたタイプの刃物。2008年の秋葉原通り魔事件を契機に規制が強化され、刃渡り5.5cm以上のものの所持を禁止する法改正がなされた。

諸刃であることによる「突き刺し性能の高さ」が危険とされている訳だが、狩猟においては、止めさしなどのシーンで「突き刺す」性能が求められることがある。

銃刀法に適合しないダガーナイフはまず売られていないので心配ないが、「通常のナイフの背(峰)の部分を研ぎ出し、突き刺し性能を高める」といったことをするには注意が必要だ。

剣の定義では「鎬(しのぎ)を中央に左右均整のとれた諸刃」とある。さすがに左右均整とまではいかずとも、過度にナイフの背を研いで諸刃に近づけてしまうと違法となる。ここでも「◯cmまでOK」といった明確な基準は存在しないので、必要がなければ避けるべき加工と言えるだろう。

僕はコールドスチール社の「ブッシュマン」を止めさしに使っているが、そうした加工をせずとも十分な突き刺し性能があるので特に問題はない。