濃厚!アナグマのラードでカルボナーラ

檻に入ったアナグマを譲ってもらった。

僕の住む村ではアナグマによる畑の被害が多く、こうして捕獲されることがある。夜道を車で走っていると時々出会うアナグマは、足が短く、ずんぐりしていて動きが鈍臭い。見た目には大人しそうなイメージがあるが、やはり野生の動物、檻に近づくと「ガゥッ」と獰猛に怒った。

これから殺して食べようという時に、可愛い声を出されては心が痛む。本当に自分本位な話なのだが、「あんまり可愛くなくて良かった」と思った。

ありがたく食べさせてもらうことにして、川で溺死させ、解体した。

写真、右が尻尾側、左が頭側である。全ての骨を取り外すと、このように一枚の肉になる。肉の色は深い赤で、脂は真っ白。脂の融点は低いようで、解体時の手触りはだいぶオイリー。

これを手頃なサイズに切り分けてから真空パックして冷凍保存した。

写真は腰のあたりから後ろ足にかけての部位だが、肉というよりほとんど脂である。アナグマは美味いのだが、個人的には肉が美味いというより脂が美味いと思う。彼らは雑食性なので、自然界にある色々なものをバランスよく食べているためか、とても豊かな甘みが脂にのっている。

しかしながら、ご覧の通り「ほとんど脂」であるため、これをそのまま調理して食べるのには向いていない。

そこで脂をラードとして精製し、調味料的な使い方をすることにした。正確には「ラード」は豚の脂肪を指すので変な言葉づかいだが、ともかくアナグマラードを作る。

とりあえず適当に切ってから火にかけた。焦げつき防止のため、脂の重さに対して1割程度の水を加える。

しかし、ジュージュー音がするばかりで脂は固形を保ったままだ。

そこで一旦取り出して、さらに細かいサイズに切り刻み、もう一度鍋へ。それでも、少しだけ液体の脂が染み出す程度。

温度的には十分脂が溶けているはずなのに、これはおかしいと思い、マッシュポテトを潰すための道具でサイコロ状の脂を潰してみたところ、「ジューッ」と一気に脂が出てきた。なるほど、脂を絞る必要があった。

脂を絞った瞬間から、ものすごく良い香りが立ち込めた。濃厚で華やかなバターという感じ。獣臭さのようなものは一切ない。これは期待できそうだ。

網で濾し、脂だけを取り出す。バターを溶かしたような、黄色がかった半透明。最初に水を加えて加熱したのが良かったのだろう、焦げはない。

冷ましてから、冷蔵庫で冷やした。バターに比べると色が白く、柔らかい。硬さのイメージとしては、あんこと同じくらいだろうか。簡単にスプーンですくえるので使いやすい。アナグマラード、完成。

これを使って、カルボナーラを作った。通常はオリーブオイル等を使用する場面で、アナグマラードを使用した。

料理の途中から、バターをさらに濃厚にしたような香りがする。豊かな甘さのある脂だ。とくにキノコとの相性が良いように思う。森の食材には森の食材が合うのかもしれない。

カルボナーラ全体としては、普通に作るよりもコクが加わっているような気がする。強い主張は感じられないので、なんとなくだが。クセがないので、日常的に食べ続けられる優秀な調味料であると思う。

「あ、バターの香りに似てる」と気付いた時、安心した。

アナグマを食べるという習慣は一般的ではなく、「一般的ではないものを食べる」いわゆるゲテモノ食に近いニュアンスを以って食されることが多い。

「どんな味がするんだろう」という好奇心。それはそれで楽しめるとしても、その後も、飽きずに食べ続けられるかどうかは別問題だ。

市販のバターと同じくらいの感覚で、安定感で、気安さで、当たり前にアナグマラードを食べるようになった時、ある意味では、それこそが「本当に食べた」ということになるのかもしれない。