シカのおっぱい、食べてみた

ちょっと品揃えの良いホルモン焼肉屋に行くと、「チチカブ」という名前で牛のおっぱいを提供していることがある。僕はこれが結構美味いと思っていて、自分でメスのシカを獲ったら一度おっぱいを食べてみたいと思っていた。

少し痩せ気味ではあるものの、毛並みが綺麗で健康そうなシカを仕留めた。解体の際に、おっぱいを切除して取っておく。ナイフを入れると白いミルクが少し出てきて、匂いがする。牛乳よりは「いかにも乳」という感じが強いが、ヤギのミルクほど独特な匂いではないように思う。

シカの解体は何度もやっているので、血や内臓に対する抵抗は無くなった。しかしながら、おっぱいを切除するのは初めてなので、通常の解体だと出てこない白い液体を見ると、そのイレギュラーさゆえに、一瞬、ちょっとだけ「気持ち悪い」と思う。でも、考えてみれば、これと同じような牛乳をコップ一杯に入れてゴクゴク飲むのは平気なわけであって、つくづく「何でも慣れだなぁ」と思う。

皮を取り除き、切り分けてから流水にさらす。初めはミルクが流れ出て水が白く濁る。ときどき軽く揉んでミルクを抜きつつ、一部を焼いて味見をしながら、ちょうど良い「ミルクの抜け具合」を探る。

僕の好みから結論を言うと、ほとんど水が透明になるくらいミルクを抜いた方が良い。ミルクが抜けていないと、独特の乳臭さが残る。ミルクの甘みは美味しいので、そこは残しておきたいのだが、臭みを抜く方が優先される。写真くらい水が透き通るようになれば、焼いても臭みはほとんど残らない。

水から出してキッチンペーパーで水気を取る。フワフワしている。塩と胡椒で焼いて食べると、優しい味がして非常に美味い。柔らかくてサクっとした歯切れの良い食感で、ほのかな甘さが特徴的。ハツほどコリコリしていないが、「味より食感が前に出てくる」という意味では同じ系統。牛のチチカブと比べると脂が少なくてアッサリしている。しっかり目に焼いた方が旨さが出てくると思う。

たぶん、牛のチチカブを食べた経験がなかったら「よし、シカのおっぱい食べてみよう」とは思わなかっただろう。

ホルモン焼肉屋で初めてチチカブに出会った時は「えっ?牛のおっぱいって食えるの?美味いのかな。試しに注文してみようかな。」だった。今や「シカ獲ったけど、おっぱい美味いのかな?ちょっと切り取って持って帰ろう。」である。

また一つ、「慣れ」の階段をのぼった。猟師でもシカのおっぱいはあんまり食べない。ただ単に食ったことのないものを食ったというだけの話なのだが、何かが少しレベルアップしたような気がしている。