ピチットシートで鹿肉サラミ作り
シカは、大きなブロックの塊で取れる肉が少ない。写真のように、スジの入った細かい肉が多いのだ。こうした部位は、販売するにしても値段が非常に安いため、ハンターの自家消費用となる場合が多い。今回は、この肉を使ってサラミを手作りしてみた。
まずは、ミンサーで挽く。貝印の手動ミンサーを使った。2000円くらい。手間はかかるが、問題なく挽肉になる。挽肉の粗さを決める部品が2種類入っているのだが、今回は「細かい方」を使用した。「粗い方」でも、それはそれで美味しいと思う。下記の分量で味付けをした。
・挽き肉 1050g
・塩 20g
・ブラックペッパー(ホールを削る) 5g
・ガーリックパウダー 5g
・サラダ油 大さじ2
・砂糖 5g
・ナツメグ 小さじ1
さあ、ここで登場するのが今回の主役アイテム「ピチットシート」だ。これは、半透膜フィルムでゲル状の成分を封入した「食品脱水用のシート」だ。ゲル状成分の浸透圧が高いため、食品に含まれる水分がどんどん吸い取られるという仕組みだ。(肉とゲルとが半透膜フィルムを隔てて密着すると、浸透圧の低い肉側の水分はゲル側に移動する。移動したら、元には戻らないような壁が、半透膜フィルムだ。)さらに、半透膜フィルムの穴は「アンモニア等の臭み成分分子は通すが、旨味成分分子は通さない」サイズになっている。つまり、「水分と臭みだけを取り除き、旨味成分だけを残し凝縮させる」ことができるのだ。
挽いた肉をピチットシートに包み、筒状に整形する。輪ゴムで止めれば、もうすでに少しサラミっぽい様相を呈する。ピチットシートには、その吸水力に応じて「マイルド」「レギュラー」「スーパー」の3種類があるが、今回は「スーパー」を使用。冷蔵庫に入れて2日後には、すでにかなりの水分が脱水されていた(写真2枚目のように、2層のフィルム内部に水分が蓄えられている。一方で、中身の肉は随分乾いているから驚きだ)。
2日目にピチットシートを交換し、その後さらに4日間、冷蔵庫に。ここまで脱水すると、もう挽肉はずいぶん乾燥していて、棒状の形を保ったままサラミ然としている。作業時には新品の食品加工用手袋をして、都度、食品アルコールを肉にスプレーした。そうして脱水を進めれば、臭いなど全く発生しない。この時点で全体の重量は最初の80%ほどになる。
それから、燻製を施した。さくらのチップを使って、3時間半ほど。燻煙中の酢酸は水に溶けやすく、嫌な酸味の元になる。燻製をする前に、食材の脱水をしっかり行いたい。スモーカー内の温度は70度〜80度ほどを保った。厚労省のジビエ衛生管理ガイドラインを参照しつつ、リスクがないと思われる温度まで上げてみたわけだが、次回はもっと低い温度でもトライしてみようと思う。より肉々しく仕上がる気がしている。
燻製をかけてやると、表面に良い感じの艶が生まれ、いよいよサラミという感じの見た目になった。この時点で少し切り分け試食してみたが、燻製した直後は煙の味が強すぎる。また、旨味もまだ完全に出ていない(それでも、十分旨い!)。
干物用のネットに入れて、外の風にあてて1週間放置する。それで、やっと完成だ。重量は最初の50%まで落ちた。燻製の直後と比べれば煙の味が落ち着き、肉の旨味が格段に増している。よく熟成したシカの赤身肉に、ブラックペッパーがガツンと効いていて、ビールによく合う。今回のレシピではサラダ油を少し添加するにとどめたが、動物性の脂肪分を加えても美味いと思う。
薄くスライスして、綺麗に真空パックしてから、村の飲み会に差し入れとして持っていった。シカやイノシシが多く生息する山間部の我が村においても、案外、鹿肉は日常的な食べ物ではない。「鹿って、美味しいの?」という地元の人もいるくらいだ。そんな人からも、「これ美味しいね、コンビニに売ってるサラミみたいだよ」と褒めてもらえる。
僕は、コンビニに代表される大量消費・大量生産の世の中に少し飽きて、なんでも人まかせ・金で解決、そういうスタイルから少しだけ距離を置きたくて、狩猟の世界にやってきた。でも、そこで自ら獲って作り出したものが、「コンビニみたいだね」と褒めらていることが、少し可笑しかった。もっとも、褒めてくれた人は「普通に美味いじゃん」と言いたかっただけのことなのだけど。